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2017.07.11 情緒と論理、または記憶と記録
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二人の写真家の写真集をほぼ同時に手に入れた。
ひとりは、1950年代からニューヨークで第一線のファッション・カメラマンとして活躍しながら、1980
年代に商業写真から退き、世間から姿を消したソール・ライター(1923-2013)。
かたや、1960年代より活躍した戦後日本を代表する写真家、中平卓馬(1938-2015)。制作と批評を両
輪とする当時センセーショナルを巻き起こした活動を展開し、途中、薬とアルコールで記憶を失うも、復
活した日本の現代写真に大きな影響を与えたひとり。

ふたりの作品を見比べると「情緒と論理」、「記憶と記録」。
ソール・ライターの作品はジャポニズム。大胆な構図は浮世絵に由来する。そこに、印象派から派生し
たナビ派のおしゃれさが加わり、使うレンズは中望遠。まさしく「絵画」的にニューヨークという都市を
大胆に切り取る。都市に住む人にこそ撮れる画像だ。構図といえば巨匠ブレッソンだが、彼の完璧な画
面構成は「一瞬」の凄みがあるが、この写真家は一呼吸おいたショット。凄みはないが情緒がある。
だから、どこかで見た情景の記憶として共感できる。そこが良い、フレンドリー。
ワタクシはこの絵画的な情緒感に惹かれてこの写真集を手に入れた。

中平卓馬の写真集は生前最後に訪ねた沖縄の作品集。中平は森山らと開発した「アレ・ブレ・ボケ」の
情緒感たっぷりの表現を自ら完全否定した。以降、その表現を封印し、深い被写界深度で「そのもの」
を標本するかのように画像を残した。「そうすべきである」という論理が先に来ている。視線の標本。
掲載されている画像は、中望遠のレンズで撮影された左下がりの情緒感ゼロの縦画画像。
「うん、沖縄で撮った写真だね」としか言いようのない、他者にとっては共感しづらい画像ばかり。
これもまた、写真。カッコいい。クール。
この写真家の残した視線を、ワタクシは「買うべきである」と思ってこの写真集を手にいれた。

2016.05.07 古本市でのハーハーゼーゼー
古本屋へ入るのは楽しい。知らない街で出会った古本屋、目的がなくとも、なんだかウキウキする。
古本市経験二度目、今回は「みやこめっせ・春の古書大即売会」におじゃました。

初めて行ったのが「下鴨納涼古本まつり」。露店の古本市はのんびりした雰囲気で、散歩がてら
来ましたよって感じで、ぶらぶら品定めするだけで十分満足できたが、今回は大きな会議場を
借りてのイベント、出店している方も来場者も本気度がひしひしと伝わってくる。
ゆえに、こちらも気持ちは高ぶり、パブロフの犬のごとくハーハーゼーゼーとなる。
ああ、これは中古カメラ市でも味わった気分だ。しかし、中古カメラ市より敷居が低いから、
買う気満々・・・・・ところで、ふと我に返ると、どんな本が欲しいの?となってしまった。
古本屋が90店舗も集合している会場、どの店に何があるのかもわからず、ジグザグに手当たり
次第に歩くこと1時間半、巡っていくうちに自分が欲する本の傾向と対策がわかってきた・・・・・
① 展覧会の図録 ② 洋書の写真集 の2点、しかし、なかなかどうして、探すのが大変。
どうにかこうにか手に入れたのが、2003年に開催された丸山応挙の展覧会豪華図録一冊のみ。
ムムム・・・、これだけでは満足できない・・・・と、傾向と対策を無視して手に入れたのが、
昭和20年代後半から30年代に刊行された「岩波写真文庫」の中から、和歌山関連の4冊。
当時の古いモノクロ写真ばかり掲載されたB6サイズの小冊子だが、自分の撮りたい写真の
参考になればと、資料がてらに手に入れた。実はこの4冊の方が豪華図録より値段は高い。
図録は1200円、写真文庫の当時の値段100円が一冊500円に跳ね上がって、4冊で2000円。
図録は丸山応挙を知るうえで価値があるように感じて手に入れたが、何気なく手に取った昭和の
古い小冊子に、図録以上の対価を支払う自分がおかしかった。

今や、個人オークションで何でも気安く探せ、それに店舗販売より安く手に入れられる世の中。
これらの本も、オークションで探せば、もっと状態がよく安価な価格で手に入れられるのだろう。
しかし、このハーハーゼーゼーの期待感と喪失感、それに偶然の出会い。これらは、何事にも
変えられないライブ感だ。古い人間だとお思いでしょうが、こんな実販売での買い物は、世界が
広がって良いな。

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GR digital Ⅳ 京都にて

2016.04.22 アートの起源
熊本地震で亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

アートの起源を知りたい。
現代人、私も含めて、もうみんなアートしてます、アートと関わりを持って暮らしています。
究極な話、栄養を摂取し、排せつし、休息を取り、栄養を摂取するために行動し、子孫を残す
・・・・生存するための条件にアートは存在しない、生きるためにアートはいらない。
しかし、人類みなアート好き、人とアートは深い関係にある。どうして?

ラスコー洞窟やアルタミラ洞窟の洞窟壁画、教科書の図版で見たことありますよね。
あれを見て不思議で仕方がない。「絵を描く」という行為が、何万年前の人も、現代人も、
その行為自体は何も変わっていない、その普遍性が不思議でならない。

そんなアートの起源を知りたくて【洞窟のなかの心】 という学術書を読んでいる。
約4.5万年前から1万年前までの後期旧石器時代の洞窟壁画を、考古学だけでなく、
心理学、宗教学、人類学、芸術学など様々な視点で論じた本である。
著者はデヴィッド・ルイス=ウィリアムズ 、翻訳 港 千尋
ラスコー洞窟やアルタミラ洞窟などの洞窟壁画のカラー図版や、正確にトレースされた
図版がたくさん掲載されていたので、深く知ることができるだろうと思って買ってしまったが、
なかなか手ごわい。昨年の年末に買って読み始め、やっと終わりに近づいてきたという、
実にトホホな状態である。こちらはずぶの素人だから読みなれない学術書、疲れるわ―。
ましてや読む体勢がだらけているから、ほとんど頭の中に内容が入ってこない。
だから、断片的にしか理解できていないが・・・・

洞窟は入口近くは一般人の場、奥へ行くほど選ばれた人物(権威ではなく)しか入れない壁画を
描いた人物は、特殊な能力(霊的な)を持った選ばれた人物たちであり、その人物たちが、当時の
人間が思い描いていた「別の世界」への入口である洞窟という場を、特殊な場所に仕立てるために、
モチーフになっている動物たちや記号に意味を持たせ、それも計画的に描いた。
・・・・選ばれた人物・・・・
暗闇で小さな炎の明かりでも絵が描ける人
狭い空間でも無理やり入っていける人
描いているときは常にトランス状態でいられる人
・・・・つまり、現代人に置き換えると、霊感が強く・絵が上手で・暗闇を苦にせず・閉所恐怖症では
なく・麻薬を吸って作業できる人・・・・こんな人、特殊技能の持ち主だよね、まさしくアーティスト。
現代人の自称アーティストなんて吹けば飛ぶような、肝の座った人物像だね。
そんな集団が描いた洞窟壁画。これら洞窟の入口近くの広いスペースでは、その周辺の住人?が
集い執り行う宗教儀礼(アニミズム)の場でもあり、彼らはその祭司でもあった。言い換えれば、
洞窟は教会や御堂で、この人たち宗教家でもある。アートは人の精神世界を視覚化したもの。

まあまあ、この学術書は様々な資料から推測した仮説であり、読んでる本人はアホで、読み散らか
してるだけだから、話半分以下です。しかし、確実に言えることは、計り知れない力を持つ自然に対
する人間の畏怖の念が、宗教儀礼とそれを演出するアート的行為を生み出したのではないか。
旧石器人には自然をねじ伏せる術はなく、それゆえ驕ることなくピュアな精神世界を生きていたのだ。
アートは、人にとって「生きる」ためには必要ないが、
「生きていける」ために必要な、最も原初的な行為なのかもしれない・・・・

2016.03.27 遅読者の悩み
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PLAUBEL makina 67

AMAZONのサイトに「ほしいものリスト」ってありますよね。
まあ、すぐに欲しいっていうわけでもないけど、欲しいなーっていう商品を登録しておくやつ。
アタクシの場合は、ほとんどが本なんですが、あれはまずいですよね。
なにがまずいかって?
それはですね、すぐに欲しいわけじゃないから、目の前に現れなければ、どうってことないんです。
しかし、その商品と店頭で出会ってしまったら「手に入れたくなる」から。
最近の蔦屋書店が大阪、京都で続々と展開している新しい店舗デザイン、あれ、魅力的ですよね。
なにが、魅力的かって?
それはですね、地方の大型書店っていうのは、売れ線の新刊本しか置いてない。(他、雑誌とか)
しかし、ここは、小さい出版社から出ている一癖も二癖もあるビジュアル系の本でも、店頭に
山積みし、「こういうの良いですよ」みたいな、こちらに新しい何かを提案しているような、
なんかこう挑戦的な態度が、購買意欲旺盛な田舎者には非常に刺激的で興奮しちゃう。

往々にして、このAMAZONの登録リストの商品が蔦屋の本棚に・・・・ある。
AMAZONと手を組んでるんじゃないか?(たぶん、そんなことはないけれど)
これはいけません、店舗デザインと相まって必要もないのに買わずにはいられなくなっちゃう。
そんなこんなで、AMAZONでほしいものリストに登録していた本が、蔦屋で発見されると
何の疑問も抱かず、すぐレジに直行→多量購入の図式が完成してしまった。
現在、読みかけの本3冊、パラパラめくっただけのアート系3冊、いまだ、伝票が挟まったまま
の本5冊・・・・まずい!どうするんだ?このまま続けると、せっかく買ったのに、読まずに終わる本が
多量に出てくるではないか?速読な読書家ならいざ知らず、遅読なアタクシ・・・どうにかしたい・・・

2016.03.14 写真の入門書を買う
「写真の本質―スティーヴン・ショアー入門書」を買った。
スティーヴン・ショア(Stephen Shore)・・・言わずと知れたアメリカの巨匠。ウィリアム・エグルストンとともに
シリアスなニュー・カラーの代表作家と評価され、 彼の一連のカラー作品は、あのアンドレアス・グルスキー
にも多大な影響を与えた写真家だ。。そのショアが長年写真と関わった経験から導かれた知識をもとに、
その見方や本質を読み解くための方法を解説した写真の入門書。

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入門書といっても、どんなふうに撮ったらかっこよく見えるかとか、カメラの使い方を解説しているわけではない。
なんせ、「写真の本質」なる訳題がついているのだから、写真についての本質論だ。
最初のページをめくると、見開き左ページに少しアンバーに色焼けした風景写真。
ロバート・フランクという写真家が1954年~1956年ごろに撮った炭鉱の家並みをホテルの窓から
撮影したモノクロ写真だ。右ページにショアの文章・・・・
左はロバート・フランクが撮った写真である。ビュート・ホテルの一室から、北ロッキー山脈の
陰鬱な炭鉱の町を見下ろした写真だが、実際に目に映った景色とはどう違うのだろう?
レンズやシャッター、あるいはフィルムはこの写真にどのような影響を及ぼしたのだろうか?
画像を決定する写真の特性とは何なのだろうか?

ページをめくると、今度は左ページにショアの文章・・・
本書では、写真の本質を理解する方法、つまり、写真がどのように機能しているかということを解説
している。対象は優雅で美しい写真だけではない。ネガやデジタルデータからプリントされた、ありと
あらゆる作品を取り上げている。すべての写真には共通する特性があり、その特性によって、目の前
に展開された世界が写真へと変形される。つまり、特性は視覚的な原理を形成し、写真の本質を解き
明かす。

右ページには1998年にジョン・ゴセッジによって撮られた、白い紙の上に置かれたスチール製の
棒状の工業製品の束のモノクロ写真。

「すべての写真には共通する特性があり、その特性によって、目の前に展開された世界が写真へと変形される。」
共通する特性かー、最初に見せられた二種類の写真に何か共通性があるのだろうか・・・
その答えが見つかれば写真がうまくなるのかなー、そんな簡単に答えが見つかるわけないよねー。
でもまー、何にせよいろんな写真を知ることから始めよう。でないと写真を撮る楽しみが広がらないや。